【簿記Q&A】連結会計の「投資と資本の相殺消去」って何なの?
Q.教えて、ひなたま屋! 連結会計で「投資と資本の相殺消去」というのを習ったのだが、意味が分からん。まるで意味が分からんぞ!
A.ひなたま屋、教えます!
投資と資本の相殺消去は、連結会計の第一歩目で習うものですが、その第一歩目が難しいですよね。
ですが、現在の会計だと連結会計って非常に重要なものなのです。
なので、ゆっくりとでいいので、その考え方を理解していきましょう!
ところで、この連結会計ってヤツは、やっぱりできると強いです。
連結がなんとなくでも分かると、ひと味違う会計人になれます。マジで。
しょっちゅうあることなんですがね、先日も評論家の先生が、「あの会社は法人税を払ってない!」とか個別の財務諸表を見て言ってたんですよね。
連結で見たら普通に納税してるんですけど……。
とまあ、連結会計が分かれば、そんなニュースにも軽く突っ込めるので、やっぱり会計人として成長できるポイントですよ。
と、余計な話はさておき、「投資と資本の相殺消去」を話してまいりましょうー!
連結会計の前提(連結のタイミング)
さて、ここからまずは「投資と資本の相殺消去」を話しますが、その前にいくつか連結の前提を。
・連結財務諸表は個別の財務諸表を合算して作成する
これは連結の大前提なのですが、連結会計は完成したそれぞれの個別財務諸表を合算するところから作成を開始します。
(このあたりがあやふやな方は、以前書いた「【簿記Q&A】連結会計ってそもそも何をしてるの?」をご覧ください)
・合算した財務諸表を連結会計としてあるべき姿に修正する
個別財務諸表をそのまま合算しただけでは、連結として正しい結果は示すことができません。
そのため、合算したものをあるべき姿に戻す「連結修正仕訳」が必要になります。
(このあたりがあやふやな方は、以前書いた「【簿記Q&A】連結修正仕訳って何なの?」をご覧ください)
・連結財務諸表を作成するタイミングは基本的に決算時
企業が親子関係になった瞬間というのは、別に決算のタイミングとは限りません。
ですが、基本的には決算日に連結処理を行うことにすると考えておいてください。
簿記2級であれば、親子会社はすべて3月31日(または12月31日など)の決算のタイミングで連結関係になったと考えます。
実際の処理でも「決算に行ったものと見なす処理」が行われたりするので、連結はだいたい決算日に行われるもの、という認識でOKです。
で、親会社は子会社の株式を買い取って支配を獲得するわけですが、その1年目の決算で合算する財務諸表は貸借対照表のみになります。
損益計算書は、「1年間の経営の成果」を表します。
そして、連結の損益計算書は「親会社を中心として見た企業グループの成果」を表します。
そのため、支配をした年度、上の図で言うと「×1年度の子会社の経営の成果」は親会社がコントロールして生み出したものではありません。
なので、支配獲得した瞬間は、子会社の損益計算書は企業グループが生み出した成果としては合算せず、今後コントロールできる子会社の資産や負債、つまり貸借対照表だけを合算することになります。
連結初年度=貸借対照表のみを合算
という点はしっかりと頭に入れておいてください。
ちなみにですが、×2年度は、連結貸借対照表・連結損益計算書に加え、株主資本等変動計算書も合算することになります。
この連結株主資本等変動計算書は試験範囲にないので、やらなくていい……
と言いたいのですが、純資産の変動は「連結株主資本等変動計算書」を基に計算されるケースが多いのです。
なので、連結株主資本等変動計算書を理解しておかないと解けなくなるので、これも合算することを知っておいてください。
(この説明をされていないテキスト等が見受けられますが、よほどうまくごまかさないかぎり、株主資本等変動計算書を無視した理解は難しいです……)
ただし、この株主資本等変動計算書も損益計算書と同じく、「1年間の純資産の変動」を表すものなので、初年度は合算せず、×2年度から合算していきます。
とりあえず今は、「株主資本等変動計算書も合算するんだなあ」ぐらいの理解でOKです。
それでは、前置きが長くなりましたが、実際の投資と資本の相殺消去に入りましょう。
事例1:新規に子会社を設立したときの処理
では、「投資と資本の相殺消去」を見るために、まずは連結をものすごく単純化した、
「新規に子会社を作ったケース」
を見ていきます。
これは、
「親会社が創業者となり、子会社を新規に作成する」
というケースなのですが、あまり難しく考えなくてOKです。
子会社の設立の手続きやその手数料などは簡略化のために無視。
とりあえず、簿記3級で勉強した「会社を作ったときの処理」だけを考えます。
新しくできた子会社側は、設立のために出資してくれた株主から財産をもらいますが、受け取った財産に対して「資本金(+資本準備金)」を計上します。
ここでは、現金100百万円(1億円)を受け取ったとしましょう。
子会社:(借)現金 100 / (貸)資本金 100
これに対し、親会社は出資した株主側なので、お金を支払って株式を受け取ります。
この株式は、相手が子会社なので「子会社株式」です。
親会社:(借)子会社株式 100 / (貸)資本金 100
こうした取引を決算日に行い、現金100を持った新しい子会社が設立されました。
そのときの親会社と子会社の会計データを、以下の通りとします。
連結では、個別財務諸表より簡略化した科目名を用います。
たとえば、「資本準備金・その他資本剰余金」は、まとめて「資本剰余金」に。
「利益準備金・繰越利益剰余金・○○積立金」は、まとめて「利益剰余金」にします。
あと、これは実際の処理とは違いますが、試験では多くの資産・負債をまとめた「諸資産・諸負債」なんていう科目名を使います。
こういう科目名にも慣れておいてください。
と、話が横にそれましたが、上の図表にある個別財務諸表に軽く目を通してみましょう。
子会社を設立する前のB/Sが、設立した仕訳により、設立後の親会社と子会社のB/Sになっていますね。
この設立後の親会社と子会社の個別B/Sを、今度は連結会計の中で合算していきます。
この合算しただけのB/Sを見て、「なにかおかしいぞ」と気づかれますかね?
……って、いきなり気づけたらおそろしい会計感覚です。
気づけない方が大半なので、さっくり言ってしまうと、
「合算するとグループの資産が100増えている」
ことになっているんです。
子会社を新規設立する前は親会社の諸資産500でした。
しかし、合算したB/Sの総資産は「諸資産500+子会社株式100=600」となっているんです。
これ、500百万円という設定でしたから、5億円が1億円増えて6億円になってます。
新規に会社を作れば資産が増える、ってのはちょっと変な話ですね。
これ、どこで増えたかというと、子会社から受け取った「子会社株式100」の分なのです。
グループ全体の諸資産は500のままですが、内部で株式を発行して、それを資産計上したために100増加したわけです。
この処理は親会社の個別で見るならOKです。
子会社株式を持っていれば、子会社が利益をあげるたびに配当をもらえる権利を得られます。
なので、「子会社株式100」と資産に書くことは大切です。
ですが、連結上、つまり企業グループ全体で見ると、なにか財産が増えたわけではありません。
もし子会社株式の資産計上が許されるのであれば、これと同じような株式の発行を繰り返すだけで、どんどんグループの資産規模を膨らませることができてしまいます。
なので、グループ内部で保有する子会社株式は除外し、連結上の総資産は500とするべきです。
なお、この子会社株式の金額は親会社が子会社に対して行った投資額と考えることができます。
そのため、子会社株式の額は「親会社の子会社に対する投資」と言います。
この借方の上昇に対応するのは、貸方の純資産「資本金」の増加です。
資本金は純資産のところで学習したと思いますが、ざっくり言うと「株主から企業に払い込んでもらった金額」を示すものです。
それを連結では、「企業グループに払い込まれた金額」と考えます。
ですが、これも合算することで、設立前「資本金200」から設立後「親会社資本金200+子会社資本金100=300」に増えています。この増えた子会社の資本金100は、グループ内部でお金が動いただけであって、グループに対する株主からの払い込みではありません。
つまり、連結上であるべき「企業グループに払い込まれた金額」で言うと、子会社の資本金は0になるわけです。
よって、支配を獲得した子会社の資本金100は消去し、初年度における連結上の純資産は親会社の部分のみとします。
以上で見てきた2つの、
・グループ内部で保有する子会社株式100(子会社への投資)は除外し、連結上の総資産は500とする
・支配を獲得した子会社の資本金100は消去し、初年度における連結上の純資産は親会社の部分のみとする
という処理を組み合わせたものが、「親会社による子会社への投資と子会社の資本の相殺消去」という処理になります。
親会社が子会社に投資して得た子会社株式100はグループで見れば内部取引でしかないので消し、同時に、設立によって生じた子会社の資本金100は企業グループ外から払い込まれたものでないために消します。
で、この親会社の投資と子会社の資本の相殺消去を行うと、以下のようになります。
確認しておいてほしいのは、この投資と資本の相殺消去を行うことで、子会社を新設する前の親会社B/Sと連結B/Sがまったく同じ数値になります。
これは、新設といっても企業グループ内部で取引しているだけなので、連結会計としてあるべき姿は取引なしと考えられるためです。
では、次は新設でなく、以前より存在していた会社を子会社にした場合を見ていきましょう。
こちらは外部の株主と取引を行うので、処理が少し変わります。
事例2:既存の子会社を支配したときの処理
今度は親会社が金銭を支払って子会社の株式を買い取ったケースを考えます。
この子会社は以前から存在しているので、その子会社を支配している株主が存在しています。
その株主から株式を購入し、子会社の支配権を獲得することになります。
今回は、現金100で親会社が子会社の株式をすべて買収したケースを考えていきます。
この場合、親会社は子会社の株主に現金を支払い、子会社株式を受け取ります。
一方、子会社側は直接的な取引は何もしません。ただ、株主が元の株主から親会社に変わるだけです。
これを仕訳にすると、
親会社:(借)子会社株式 100 / (貸)現金 100
子会社:仕訳なし
という形になり、個別の貸借対照表はそれぞれ以下のように変化します。
さて、ここで子会社の旧株主と子会社の純資産の関係を考えて見ます。
この子会社の旧株主は、ずっと以前から株式を所有していたので、子会社に対して金銭を払い込んでおり、そして配当を受け取る権利を持っていたわけです。
それらが買収前の子会社の貸借対照表では、
資本金50 資本剰余金30 利益剰余金20
として計上されていました。
理論上、これらの純資産は株主に帰属するものとされます。
たとえば、会社を支配する株主たちが「会社を解散する!」と決めたとします。
そうすると、払い込んでいた資本金・資本剰余金の金額が払い戻され、配当として受け取れる利益剰余金の金額をまとめて受け取ることができるのです。
もう少し具体的に言うと、解散するときはまず負債を返済し、そのあとに残った財産を株主が受け取るという形になります。
つまり、株主には「資産-負債=純資産」の金額を受け取れる権利があるわけです。
もちろん、資産の中には建物や機械など帳簿価額と同じようには現金化できないものもありますので、解散したら純資産額がそのまま現金として受け取れるわけではないですが、会計的には「純資産額=株主に帰属する金額」として考えられています。
では、親会社が子会社の株主から株式をすべて買い取った場合はどうなるでしょう。
この場合は、子会社の純資産額は旧株主から移って、すべて親会社に帰属することになります。
支配している親会社が子会社を解散させれば、その財産はすべて親会社が引き継ぐことになります。
なので、子会社の個別財務諸表としては、なんの変更もありません。
昔の株主に帰属していた純資産額が、そのまま買収した親会社に帰属する形になっているだけです。
しかし、これを企業グループ内部で見ると、話が変わります。
もし、親会社が子会社を解散したとしても、企業グループの外部にはなにも流出しません。
解散したとき、外部に返す払い込まれた資本はゼロ、外部に配当として渡すべき利益はゼロ。
つまり、企業グループとしては、子会社の純資産はゼロであると考えられるのです。
これは親会社が旧株主に現金100を払ったことと対応しています。
連結で見ると、親会社が子会社の代わりに、資本金50・資本剰余金20の払戻し、利益剰余金30の分配を行ったとも考えることができます。
親会社は旧株主に現金を支払ったことで外部の旧株主に帰属していた純資産をすべて消去した、ということになり、連結上は企業内部における子会社の純資産はゼロとして扱うべきと考えられるわけです。
よって、支配を獲得した子会社の純資産は消去し、初年度における連結上の純資産は親会社の部分のみとします。
これを具体的な金額で見きましょう。
まず連結では単純に合算するところからスタートしますが、合算しただけだと子会社の純資産が残ったままになります。
そこで、子会社の資本(純資産)を消去する必要があります。
では、これに対応するのは何か。
それが「親会社の子会社に対する投資」である子会社株式になります。
親会社の個別財務諸表だと、子会社株式は資産として計上されていますが、これも結局は企業グループ内部のやりとりに過ぎません。
なので、グループ内部で保有する子会社株式は除外するべきです。
これら2つの連結としてあるべき姿を考えると、以下のような連結修正が必要になります。
こうして、
・親会社がグループ内部で保有する子会社株式は除外する
・支配を獲得した子会社の純資産は消去し、初年度における連結上の純資産は親会社の部分のみとする
という連結修正を行い、最終的な連結B/Sは以下の通りになります。
これで純資産に残されたのは、親会社の純資産のみになります。
ここでポイントなのですが、この連結財務諸表は親会社の株主を重視しして作成するものです。
親会社ではなく、親会社株主であることに注意してください。
企業グループがあるとして、それを支配しているのは親会社――ではなく、その親会社の株式を持っている株主たちになるわけです。
つまり、連結財務諸表では、企業グループの真の支配者である親会社株主に役立つ情報が主に提供されているのです。
そのため、「資本金・資本剰余金」は親会社株主たちが払い込んだもの、「利益剰余金」は親会社の株主が配当として受け取れるものを、それぞれ情報として表示しています。
ちなみに、翌年度以降で子会社が利益をあげれば、その部分は親会社の支配のもとで新たに生まれたわけですから、消す必要はありません。子会社のあげた利益は最終的に配当となって親会社に渡り、親会社はその分をゆくゆくは親会社株主に渡すことになるからです。
よって、支配獲得後に増加した利益剰余金は親会社株主に帰属するものとして計上していくことになります。
子会社B/Sの純資産は全部消す、ってわけではないです。
支配獲得時に払戻しをしたと考えて、支配獲得時の子会社の資本を消すと言うことになります。
ですが、それはまた2年目の処理を勉強するときにご確認を。
さて、長々と話してきましたが、これで「投資と資本の相殺消去」のイメージはつかめましたでしょうか?
……って、厳しいですよねえ。
この内容を一回読んだだけで分かれば、かなりの会計センスだと思います。
なので、なーんとなくつかむぐらいで大丈夫ですよ。
大事なのは、
・企業グループ内部で発生しただけの子会社株式は消去する
・支配獲得時に、外部の旧株主に帰属していた純資産をすべて消去し、企業内部における子会社の純資産はゼロとする
という、「どんな処理をするのか?」という点だけが、なーんとなくのイメージで理解できれば十分すぎるぐらい十分です。
(実のところ、合格者の多くがイメージゼロの丸暗記で乗り切っているので、ここまで読んでいただけただけでも、かなり高いレベルになりますよ)
あと、試験ではさらに「子会社の資本よりも多い金額を投資した場合」「100%支配ではない場合」などを扱いますが、そこでも投資と資本の相殺消去の考え方は上記のとおりになります。
難しい論点ですが、なーんとなくのイメージさえ浮かんでしまえば大丈夫なので、がんばっていきましょうー!
それでは、なにかまた質問があればお応えしますので、どうぞお気軽におたずねくださいませ-!